MEMORIES of・・・
またなっていつものように別れを告げてあいつは俺の目の前を駆け抜けていった。
1
「よう、久しぶりじゃねえか。 おめえはいつもかっこがいいよ。いつも俺の前を突っ走っているんだから。それより、全日本F3チャンプおめでとう!」
「ああ。中条拓也くんだったっけ。おまえも如何にもサラリーマンっていうスーツ姿お似合いだぜったく。」
ホテル・ベイサイドでの奴こと渡辺涼二の全日本F3選手権チャンピオン祝勝会で、お互い軽い挨拶を交わした。来シーズンから名門ボルック・チームからイギリスF3に参戦するため、マイナークラスのドライバーにしてはやけに報道陣が目立っていた。
現時点ではF1で走る日本人は誰一人残っておらず、その余波を食い巷での人気は下降線を辿るばかりの中、昨年F3に衝撃的なポール・トゥ・ウインでデビューし、その年、荒削りさが目立ち過ぎたが為、年間二勝に止まるもの世界の強豪達の集うマカオの公道レースで完全優勝を飾り、世界へ旅立つ若者への期待と歓喜が過剰にホールを包んでいた。
こんな涼と出会ったのは深津高校のスピード狂らの溜り場“カフェ・ド・キング・オブ・ハーレー”だった。
アメリカナイズされたこの店でよく流れたDOORS、そして片隅に飾られたジミーをバックに俺等は意気投合し幾度も、ここで飲んだくれ夜を明かし、夢をぶつけ、盗んだバイク、車を飛ばし続けた。お互い彼女そっちのけで、走りまくった。
でも、涼は、ちゃっかり舞ちゃんだけにはマメに会ってたらしいが。
2
そのタクシーはとあるホテルに向かっていた。河島舞子はその中で、ゆっくりと昨夜の記憶を辿っていた。
枯れきったドライフラワー、冷めたスープ、琥珀色に変わろうとしていた高校時代の三人の並んだフォトグラフ、すべてがその夜の象徴だった。
「イギリス行きおめでとう。それでここを何時立つの?」
しばし、見つ目合ったままの沈黙が続いた。
二人は、高校卒業後、互い違う進路を選んだ。涼は、大学そっちのけで、レースにのめり込みやがて中退、そのまま、身を投じ、舞は、親の反対を押し切り、オックスフォード留学を断り、大手の三共商事に 就職を決めた。全てが、涼の為のものだった。
今、状況は逆転し、舞子は涼から唯一つの言葉だけを待っていた。
「・・・俺に着いてきておくれと・・・」
3
1994年5月1日、二人のヒーローだったある一人のドライバーがこの世を去った。いや、去ると言うよりも駆け抜けて散った。二人の夢、いや違う三人の夢が一瞬にして砕けていくようだった。唯言葉もなくその日、俺等は買ったばかり俺のFCの7と兄貴から借りた涼のNSX-Rでクラクションを鳴らして峠でバトルを繰り広げた。
涼はカートにのめり込み、俺は趣味でサーキットへ行きだした20の春の出来事だ。
4
ホテルの会場はさらに活気を帯びてきたが、それをそっちのけで雑談が続く。
「涼、夜もキャンギャルのおねーちゃんたち、ぶっちぎってんだろう。舞ちゃんが泣いてるぞ。」
「ああ、舞子とはもう別れたんだ。」
「えっ!何時だよそれ。今日は二人の記者会見だと思ってたんだぜ!」
「まあ、もう仕方がないよ、イギリスにまでついてこいなんて言えなかった。」
「あの娘もおまえの夢じゃなかったのか。レースと同じぐらいの夢じゃ。」
「もう、いいよ。それよりここを抜けようぜ!」
二人はこっそりと会場を後にした。涼二は愛車に俺を乗せ、首都高へ飛び出した。多分、プレス達の空気に嫌気がさしたのだろう。
「舞ちゃん・・・。」
途中、彼女らしい女性の乗ったのタクシーと擦れ違ったが、それ以上は口にしなかった、涼が、彼女を忘れられないのは、俺も察していたし、多分俺が舞ちゃんのこと、ずっと惚れてたのも気づいてただろうから。
「でも、変わんねえよな、あの頃と、ちっとも。」
「ああ、そうだな。こうして、いつも、学校抜け出したよな。」
「変わんねよ。おまえ、いつも、肝心な気持ち、口に出さない。」
「拓は、必要以上に、女みたいに喋るのにな。」
と、互いの性格を知り尽くした会話とドライブは時が遡り、あの頃のように、永遠に夜更けまで渡った。
そして・・・
またなっていつものように別れを告げてあいつは俺の目の前を駆け抜けていった。
5
(さぁー迎えましたイギリスF3選手権! 第三戦はここブランズハッチで行なわれていまーす。さぁーフォーメーション・ラップを終えゆっくりとスターティンググリットに着いた日本人リョウジ・ワタナベ、段とつの速さで初めてのポール奪取、どんなロケット・スタートを見せてくれるか? 興味は尽きませーん!
さぁーレッドシグナルからグリーンへ今スタート!
んん!おっと、ワタナベの出足が鈍い!アウトからスコットが並んで1コーナーへ!
おおっーと!クラッシュ!クラッシュ!多重の大クラッシュでーーーす!!)
FIN.