超路上闘士弐十最初回的決戰

 9月末、日本全国を襲った台風もただ単にその前兆に過ぎなかった。

 10月初頭、九州中央部に強烈な闘気が集結していた。

 黒い胴着を身に纏い、格闘の頂点を目指す男、隆。そして、その好敵手、拳。その二人の永劫とも思える闘いの、雌雄を決する時が刻一刻と近づいてくる。
 互いに黒帯を締め直し、互いの目を睨み合ったまま、ゆっくりと構えを取る。恐るべき緊迫の空気が辺りを覆い、そしてそれはどんどんと重くなっていく。
 不意に拳が拳に気を溜める。隆はそれに気付くや否や踵を返し後方に飛び上がる。
 拳の気が拳の中に集約され、小さな点になり、そして気の固まりの球形が構築される。
「波動拳!!」その気を一気に打ち出す拳。丁度、隆の着地地点でその波動はその意味を成す筈だった。
 タイミングを誤った隆は即座に上半身を半回転させ、その反動で体ごとを回転させ、足をさながら羽のように延ばし空中を泳ぐ。竜巻旋風脚の空中極意。辛うじて拳の波動拳を逃れた隆は着地と同時に波動拳を打ち返す。拳のそれとは違って、隆の気の溜め具合たるや尋常ではない。
 とっさに構えを取る拳。だが、今なら俺の波動拳で打ち返せると悟った拳はガードを解き波動拳を放つ。隆の波動と拳の波動が炸裂する、拳は次なる隆の攻撃に備える。だが、隆の姿は無い。
「上か!」拳が空を仰ぐ刹那、黒い影が拳を襲った。
 隆の飛び横蹴りが拳に炸裂した。同時にくるぶし蹴りが襲い、間髪入れずに波動拳が放たれる。
 弾き飛ばされ、背中から倒れる拳に追い討ちをかけんと、再度飛び上がる隆。だが、起き上がり始めた拳に異常な闘気が集約される。その気は右手の拳に集中し、やがて拳の右手が気の炎によって燃え上がる。
「昇竜拳っ!」
 拳、肘、かかとの三段攻撃として編み出された必殺技。空中でその三段を当てることは不可能だが、それでも隆に与えたダメージは大きい。
 再び隆と拳は間合いを取る。気の炎を波動拳に託し射ち放つ隆。拳はそれを垂直に飛んでよける。そこに隆はすかさずすくい突きを二発当て、着地と同時に再びもう一発食らわせる。
 起き上がりの拳に近づく隆、しかし、利那に拳は竜巻旋風脚を放ち、これに報復す る。連続の蹴りを受けた隆にしかし、更に拳は昇竜拳を無情に打ち放つ。
 隆は連続の攻撃に意識が朦朧となり、ふらつきだす。目の前がぼやけてよく見えな い。辛うじて見えるのは黒い物が悠然と近寄って来て拳に気を溜め出すその姿だけだ。先程のそれとは違って、手には青白いオーラがまといだす。
「昇竜烈破!!」二度に渡る昇竜拳を瞬時に連続して当てられ遥か彼方に投げ出された隆。これで、勝負は決まった、筈だった。
 拳は、感じた。そして思った。・・・誰だ?こいつは?
 ゆっくりと起き上がるその男は、かつて隆という名だった。だが、今、そこにいる 男は隆では無かった。
 その男は「無」だった。しかし、一歩、一歩、かつてのライバルに向かって行き乍ら、男は闘鬼へと形相を変えていった。
 男は言った。かつてのお前の力なら、俺は倒されていた・・・だが、今のお前には到底、俺を倒すことは出来ん!!
 拳は蛇に睨まれた蛙の気持を理解した。
 金縛りにあったように動けない。その男の目を見てる限り、息をするのも苦しくなってくる。拳は目をつむって緊張を打ち消し、男に一文字蹴りを放った。
 男はそこにいなかった。
 遥か上空から先程、隆の放った連続攻撃が繰り広げられる。だが、最後に放たれた 男の波動拳は、もはや気の蓄積されたものではなかった。
 その波動拳も又、「無」だった。
 拳は何が起こったか解らずに倒れた。ただ、そこにあるのは果てしない解放感だけだった。
 終わったのだ、全てが。しかし、それは二人の永劫とも思える闘いの、単なる一戦にしか過ぎない。
 男は何時しか隆に戻っていた。ライバルに別れも告げずに去っていく隆。
 それは、既に次の闘いへの第一歩なのだ。格闘の頂点への道は更に遠く、そして険しい。その道の最良にして最速の方法・・・
「俺より強い奴に、会いに行く」

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