Should't have to be like that.
空気が乾いている。急に気温が下がり始める。
砂漠の夜は冷える。それも並の冷え方ではない。昼間のあの灼熱が嘘のようだ。
大昔、夏の精霊と冬の精霊がこの地を奪い合って戦った。戦いはいつ果てるともなく続いた。見かねた神は精霊達に命じて言った。昼を夏の精霊達のものとし夜を冬の精霊達のものとするがよかろう。と。
そのおかげでこの不帰の砂漠は昼は灼熱、夜は氷結という気候になったのだという。
僕は真っ白な息を吐きながら今夜一晩寝る場所を探した。どうもいい場所が見当たらない。
僕は荷物を引いているひとこぶの駱駝に目を向けた。
草食動物の優しい目が地平線を見ている。
僕も遠い地平線に目をやった。なぜかうっすらと黄金色に輝いてる。
そのまま空の方に目をやると上弦の細い細い月がたくさんの星の海に浮かんでいる。
僕は駱駝を見て言った。
「空が切れそうな月だ」
「ブゥェェェェ」
駱駝が答える様に鳴く。
ざっざっと僕と駱駝が砂を踏む音だけが夜の中に響く。ふと、遠くに何か動くものが見えた気がした。
目を凝らすと駱駝にのった人の様だ。まだ遠くてはっきりとは見えない。
一時間くらい歩いたろうか?やっと向こうの様子がはっきり見える位置まで近づいた。毛の長いふたこぶ駱駝に翡翠の玉で出来た鞍を乗せている。乗り手は西域風の服をまとい西域風に顔をヴェールで包んだ女だ。
彼女は僕の前まできて駱駝を止めた。そして澄んだ声で言った。
「オアシスまでは、遠いのですか?」
ヴェールから少し覗いた艶やかな黒い髪が風にさらりと揺れる。僕は言葉が浮かばずただ、
「オアシス・・・ですか?」
と答えるのが精一杯だった。彼女は僕の言葉にゆっくりとうなずいた。
「あ・・・あの、水が足りないのですか?よろしければ・・・」
僕の言葉が終わらないうちに彼女は首を横に振った。
「水ならあります。あそこにも。ほら・・・」
彼女が指差した先には月牙泉とでも言うのだろうか三日月の小さな泉があった。
「あれではいけないのですか?」
僕の問に彼女は悲しげに首を振る。
「あれにはロプノールから流れ込んだ水が混じっているのです。微かにですが・・・
・・・でも、塩が混じっているとだめなのです。私の私たちの呪文には・・・」
「呪文・・・」
「ジプシーの魔法」
そう言うと彼女は舞うようにしなやかに駱駝に乗った。そして、僕があっけに取られているうちに去ってしまった。
僕はただ彼女の後ろ姿を見ているだけだった。
風が三日月の形の泉のほとりにはえている紅柳をゆらした。