Singing in the bluish moon
そのマンドリンの音色、やけに、物悲しい胸に響いた。
英雄を歌うにしては、現実身を帯びていて、美化された誇張表現すらない。
それは、この地の現状と衰退へと傾きかけているのを、暗示、または予見するものに聞こえていた。
「アルフォンのワインを1杯。」
「旅の休息にしては酷な詩だな。」
旅人へとフードに身を包んだ司祭は、グラスを片向けながら、溜息のように、そう洩らした。酒場にて、少しばかりの喧騒、旅の不安、心に突き刺さり染みいる詠唱は、続く。
〜灰色から黒へと身を変えたシオンよ。グーラント山並の震えが届くのかい。ジェラルの渇きと咆哮が聞こえるかい。聖地レイサスの神官達を貫いた氷雨は、見えないのか。恍惚の域へ、永眠につくえの転寝の瞼にこの惨状は、映らなかったのか。〜
やがて、詩人の詩は終わり、時折見せた感情に満ちた顔は消えて、額に流れた汗を拭った後、何事もなかったかのようなクールな装いで、足早に木製の出入口まで歩みを進めた。それに呼応したかのように、半分の残っていた紅いのワインを、旅人は、飲み乾し、マスターに尋ねた。
「あの、詩人はよく来るのかい。」
「ん〜、初めてだと思うよ。この店に、少しばかり、似合わないが、いいメロジ〜だね。ん、すごくいい、うん、実にいい、音色だったにゃ。う〜ん、この店創業以来・・・」
「そっ、そうかい。」
と旅人はチップを渡し、まだ、軋む両開きの扉まで、小走りで向かった。
宵の中、月と星の微光に詩人の後ろ姿、簡素かつ艶やかな装飾品が、淡く反射していた。旅人は毅然と優雅に、立ち去る者を追いかけて、問いかけた。
「グ、グーラントの騒ぎについて何か知っているのか。」
「さあーね。 放浪の民ですから。それより、身形を隠しても、あなたの身分、素振りで何者か見え見えですよ。まあ、旅は長く成りそうですから、どうぞ、お気をつけを。」
詩人はそう告げるとゆっくりとこちら向きなおし、凝視した。
天空は薄い灰色に包まれていた。
二つの沈黙は、睨み合ったまま続いた。
蒼い月は、満ちてはいたが、厚く立ち篭めた雲の前に、存在の力を示すまでは、刻を待つ必要があった。