short story 01
Working man ーこの街のどこかで
坂崎志郎、32歳。
仕事に生きる彼は、いまだシングルである。
慌ただしい金曜日、雑誌編集社に所属する志郎は、机に独り座り、黙々とペンを走らせていた。
昨夜の接待と、長時間のデスク・ワークがたたり、大きなあくびに続き、眠気が襲う。
「うーん」
目頭をおさえ、頭を左右に振る。 今日は残念ながら、彼愛用のスーパーブラックペッパーガムを切らしている。
「よし、お湯が沸いたぞ。」
そそくさとブルーマウンテンを入れ、一気にのどに流し、飲み干す。
だが、一向に眠気は覚めず、やがてそれは魔物と化し、じわじわと忍び寄る。
「はっはっ睡魔なんてくそくらえさ、勝負してやる。クロール、平泳ぎ、犬かき、なんでもOKさ、なんなら個人メドレーでもいいぞ」
彼はswimerと勘違いしているらしい。おまけにスペルまで間違っている。
「そうだ」 眠りそうな脳をしぼり、答えを見つけたようだ。
「羊が千匹、羊が九百九十九匹、羊が九百九十八匹......」
なんと羊の数を逆算し始めたのだった。
羊を三百六十七匹数えた頃、暖かいデスクの日だまりで安らかに眠る男がいた。
坂崎志郎、AB型、恋するおちゃめな乙女座である。
タイヤがアスファルトを切りつける。海からの潮風。オイルの香り漂う。
今日は、真夏の日差しがやけに心地いい。
久々の休日、志郎は早朝から港まで、愛車白いスパイダーで出かけようとしゃれこんだ。
「アバンチュールな誘惑と、海からの風が共犯者さ。真夏のかけひきには、ためらいよりも予感が似合うーWoo...」と御自慢の、のども冴える。
「まさに、心が笑われるとは、こういうことだな」・・・それは、心が表れるの間違いではなかろうか?
ゆるいカーブ、今度はS字を、彼はレーサー顔負けのハンドルさばきで 切り抜ける。
「よしっ行くぞ、次は多角形コーナーリングだ。ドリフトだ。続いてベリーロングストレートがやって来る。ここは5速全開だ。レッドゾーンぎりぎりまで引張るぜ」
ーこのスリルと快感がたまらない、俺は今、風と一つになるのさ!ー
今日も彼の愛車ブリジストーン製、5段変速の自転車”スピードスター”は絶好調である。