PLUTIA 06

 閃光が走り、俺の左腕を青白い閃光が貫いた。とっさに右に身体を投げだす。しかし、アインバルトのレイガンは次は容赦無く俺の右足を灼いた。死ぬ思いで銃を構え立て続けに三発の弾を奴めがけて打ち込んだが、奴は廊下の角の影に隠れた後だった。
「無駄なあがきはやめ給え。そこに寝転がっている君は格好の射撃の的だ」
 俺は角に隠れる奴めがけて牽制でエネルギーブレットを打ち込むと、奴が隠れた方の壁ぎわまで重い身体を引きずり、奴の死角に逃げ込んだ。
「君の諦めの悪さにはうんざりさせられるよ。素直に敗北による死を受け入れたらどうかね。」
 廊下に響くアインバルトの声はあくまで涼しげだ。台詞が違えば友人とでも話しているような印象を与える。
「どうした?何か最後に言っておく事があるなら私が聞いておこう」
 奴は平然とそう言いながら、おもむろに腕だけ出して銃を乱射してきた。
「くそくらえ」
 奴のレーザーは狙いも何も考えずに乱射されているが、辺り一面を灼きながら徐々に俺に近づいてきた。
 俺は奴の腕を狙って撃ち返すが、出血のせいか視界が揺らぎ、狙いが定まらない。
「よもやタカミヤを探しに来るのが君だとはな、運命とはかくも不思議なものだ」
 奴は俺が撃ち返すと腕を引っ込め、角の影で軽く笑い声を上げ出した。いやになるほど上品な笑いだ。人をレイガンで灼き殺そうかとしている男が出す笑いには到底聞こえない。
「タカミヤもタカミヤも殺ったのか?」
「さぁ、それはどうかな。少なくとも私が直に手を下した覚えはないな」
 再び、奴はレイガンを乱射してきた。
 今度はさっきより断然俺に近い場所を狙ってきている。
 奴は俺がどの位置にいるのかを探りながら撃ってきている。だが、奴は絶対に二の腕よりも先は角から出そうとしない。乱射しているレイガンの一発が、偶然俺の身体を貫くのを待っているわけだ。
「てめぇはどこまで姑息な奴だ、アインバルト」
 俺が叫びながら撃ち返すと、またもやアインバルトは腕を引っ込めた。
「腕も足も一本しか使えねぇ今でも、俺と面と向かってやり合って勝つ自信はねぇんだな」
「君に姑息と言われると褒められた気がするよ」
 挑発して誘き出そうとしても、奴は俺の罵声を毛とも感じていない。
「二年前君達のせいで裏舞台に引きこもらなければならなくなったが、ここでその借りが返せるとはつくづく私は幸運な男だ」
 アインバルトは不思議と俺の話に合わせて話しかけてきている。何かが変だ。
「君は二年前もそうやって這いつくばって死ぬのを恐れていた。覚えているかい?あの戦いを。あの時のメガダインもマイオスだったが何か運命じみたものを感じるね」
 俺が黙っていると少し間をおいてまたもやアインバルトが話しだした。
「そうそう、知っているかな。カリオン軍曹は去年不慮の事故で死去されたよ。不慮の事故でね」
「な、何が言いたい」
「なに、あの時の事を覚えている貴重な人物を失ったと言いたかっただけだ」
 俺が声を上げるとそう答え返しながら奴は三度みたびレイガンの乱射を始めた。その光線は俺の周囲3メーターに集中して降り注ぎ、そのひとつが俺の左太股をかすめ、肉を灼く嫌な臭いと、激痛とを俺に与えた。
「おや、今度は当たりのようだね。 君が抵抗しないと言うのなら一思いに頭を蒸発させて差し上げるのだが」
 俺がうめき声を上げると、勝ち誇ったようにアインバルトが話しかけてきた。またも乱射を止め、角の影に隠れたままでいる。
「どうした、傷が痛むのかい」
 俺が黙っていると我慢しきれないように話しかけてくる。
 わかった。
 奴は俺の声を聞いて、俺のいる場所を絞りこんできている。もう一つ、奴の銃はレイガンで、速射には向くが連射には銃身温度の上昇の関係で向いていない。その冷えるまでの時間稼ぎも合わせてお話をしたがっているわけだ。
 俺はそう気付くとゆっくりと場所を移動した。音は一つも立てない。
「ついに天に召されたか、ジルファス君」
 奴は今、俺がわざと答えないのか、口を開こうにも死んで答えられないのかを判断しかねて迷っているはずだった。
 俺は沈黙に耐えた。右足と左腕は耐えがたい痛みを脳に訴えかけてきているが、それも完全に無視し、沈黙を守った。ここが、勝負だ。
 素早く、影から右腕を出すと、奴は確実に俺が元いた場所にレイガンを打ち込み始めた。音を立てるのを避けて、余り移動できなかったが、奴の狙いが正確になっている分、俺の目の前でレーザーがはじけ飛ぶ。しかし、そのうちの一発が、狙いをはずれて偶然俺のわき腹をかすめた。
 !!
 俺は声を出さなかった。目が眩むほどの激痛がわき腹から脳へ飛び込んできたが、俺はそれに耐え、肉の灼ける嫌な臭いにも耐えながら、奴のレイガンの銃身が一定温度まで上昇するのを待った。今、声を上げれば全てが終わりだ。
 熱線のシャワーがやっと、終わりを告げた。
 廊下には俺の足や腕、わき腹から上がる肉の灼ける臭いが充満している。出血もひどく、すぐにでも切れ飛びそうになる神経を、俺は歯を食いしばってどうにか持ちこたえさせていた。
 長い沈黙の後、奴が動いた。
 肉の灼ける臭いと、自分の銃の手ごたえ、それと遠くで針を落としてもその音がわかるかのような沈黙に、奴が、俺の死を信じたのだ。
 それでも奴は用心深く、片目だけを廊下の角の端から覗かせた。
 十分だった。
 奴が廊下の先に見たのは、俺の黒こげの死体じゃなく、狙いすまされた黒竜の銃口だった。
 暴発する危険を承知の上で8900まで攻撃強度をあげた黒竜のエネルギーブレットが、オレンジ色の光を帯ながら一直線に奴の右目をめがけ吹っ飛んでいった。 とっさに奴は避けた。
 だが、最高値マックス以上のエネルギー負荷を帯びた弾は、引っ込みかけた奴の右耳をかすめ、耳とその周辺の肉を一気に蒸発させた。
「うごおおおお」
 アインバルトの口から、人間のものとは思えない絶叫が絞り出された。
 俺にしてみれば、あの弾を瞬間で、あれだけ避けれたアインバルトの反射神経こそ人間のものとは思えなかった。
 俺は止めを刺すため、朦朧とした意識に鞭打ち、黒竜を片手に起きあがろうとした。そこで、のたうちまわるアインバルトに対して、一瞬、隙ができた。
 アインバルトは落としていたレイガンを左手で掴むと、右手で右目を押さえながら、獣のような声を出しながら俺に向かって乱射し始めた。
 一発のレーザー光が、俺の右胸の上部を貫いた。肩口に近かったが、その一発で、俺は終わりだ、と確信した。
 俺は、後ろに倒れこみながらも、最後の死力を振り絞って、奴に向かってエネルギーブレットを打ち込んだ。
 何発打ったかは覚えがないが、そのうちの一発が奴の左腕を吹き飛ばした。奴は、それで正気を取り戻したのか、素早く、廊下の影に飛び込んだ。アインバルトがいた場所には、奴の左腕とレイガンが転がっている。
「きっ、貴様の、そこが、そういうずるさが、き、気にくわんのだ!!」
 気でも触れたかのように、奴は叫び出した。
「何の特別な訓練も受けていない、何の機械的補強もしていない、金も力もないクズのくせに、私よりも劣った、俗物的な愚民の一人のくせに、いつも、あの時も、今も、何もかもを知っているような素振りを見せ、人の裏をかき、人の真意を読み、なにかにつけ私を見下し、この、私を見下したのだ、この私を!さらに、あぁ、私の美しい顔を、腕・・・左腕」
 奴は支離滅裂に叫び散らしている。俺は、遠のく意識と戦いながら、ふと、心に浮かんだ疑問を口に出した。
「アインバルト、ここらにはいったい何があるんだ?てめぇが昔俺達を裏切ったのも、たしか、65番街に入った辺りだった。
 最後のメガダインがここらに逃げ込んだときだ。どうしてだ?なぜ、裏切った。なぜ今日ここでてめぇとメガダインが顔をだす?何がある、65番街に?そこまでして秘密にする事があるっていうのか?」
 急に、奴が叫ぶのを止めた。怒り狂っている人間を黙らす、もしくは人を本当に怒らせるのは、真実を突きつけた時だ。 嫌な予感がした。
「貴様は、知ってはならない事に、気付こうとしている」
 そう言うと、アインバルトは急に黙り、一瞬静寂が廊下を包み込んだ。
 カチッ。
 俺の耳が微かな金属音を捉えた。
「おしゃべりも終わりにしよう」
 そういうと、アインバルトの右腕が角から現れ、何か黒い玉をこちらに放り投げた。
 手榴弾パイナップル
 俺はとっさにそう判断し、玉を狙って黒竜をぶっぱなした。
 狙いは違わなかった。だが、弾が命中し、その閃光が目を灼くのと同時に、強烈な爆風が廊下を伝って駆け抜け、熱い気の塊が俺を背後の壁に打ちつけた。
 俺の意識が急速に俺自身の内側へ沈み始めた。しかし、俺は手榴弾パイナップルの爆発と間を置かず、廊下の奥のアインバルトの隠れる辺りで続けて爆発が起きた事に気付いて、少しばかりほくそ笑んだ。
 メガダイン用に仕掛けていた仕掛の一つが今の爆風で働いていた。壁に仕込んだ粘土が爆発した訳だ。
 地獄に落ちるのもてめぇと一緒か、アインバルト。

 そして、白い暗闇が訪れた。

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