RISK - The Real Legend - 09
森は、暗闇と静寂の中に深く沈みこんでいた。
日は地の端の陰で眠りにつき、空には、月と無数の星々だけが暗い雲の中浮かんでいる。
そんな中、他の五人が焚き火の周りに寄り添うように寝入っている中で、エルヴァージュだけが武器を携え、見張りとして眠らずに起きていた。
エルヴァージュは、仲間達をゆっくりと見回した。
ケインは、種族はドワーフだが、この五人の中でも、最も古く、そして親しい男だ。ただ、人間達四人は、考えてみれば、つい数日前に知り合ったばかりだった。アース、グレニー、フェラルド、エリーシア。不思議と人好きのする若い剣士と、傭兵上りの男。若い魔術師に、これも若い天空神の女神官。
ドワーフと人間の若い冒険者達。エルフの仲間が見れば笑いだすか怒りだすか、とにかく、普通では考えられない旅の連れだった。
そして、ここにはいない、一人の英雄、「灰色の剣匠」。あの後、リベリウスは、何も言わずに木立の先に消えた。アースが、後を追わぬ方がいい、と言い、皆が同意したため、今夜は、明日に備えて休む事にしたのだ。
夜鳥達でさえ寝付いた深夜、エルヴァージュは焚き火の火の揺らめきを背に、懐かしい故郷の森の中にたたずんでいた。
残照の森。
古代のエルフ達の祖先、メシエスは、残照の谷とそれを囲むここ残照の森一帯に、自然と融合した壮大な小国家を作り出したという。そこは、中位世界でありながら妖精界であり、妖精界でありながら中位世界でもあった。
森を深く進めば、妖精界に辿りつき、森を抜ければ大陸上に下り立つ。谷の集落は妖精界までの旅の中継地点であり、中位世界に行こうとする者、妖精界に帰ろうとする者、その全てがこの両世界の狭間の森を通っていった。
「黄昏の都」
古代、人々は、メシエスの住む森でも最も西にあったこの一帯を、そう呼んでいた。
「日は沈み、黄昏は薄れ、後には残照だけが残る、か。そして今は、闇の中」
エルヴァージュは一人、大木にもたれかかりそう呟いた。人間達が言う通り、この森は残照すら薄れ、闇の森と化してしまった。森の守人、エルフ達はその住まう谷ごと結界の中に失せ、魔軍の化け物どもが我が物顔でうろついている。最悪だった。
「いかな場所でも明けぬ夜は無い、と人間は言うがな」
真夜中の静寂の中突然話し掛けられ、驚いて振り向くと、そこにローブ姿の男が立っていた。リベリウス=ディア=マード。「三英雄」の一人。エルフ達はこの男を、「灰色の剣匠」と呼んでいた。
「いったいどうしたんですか」
エルヴァージュは目の前の偉大なる男に声を掛けた。月が傾き、夜明けまでのこの時間はエルヴァージュが見張りとして起きておく順番だった。
「旅立とうと思う」
男はポツリと呟いた。
「えっ?まだ、日も昇らぬうちから?それでは皆を・・・」
「起こさなくていい。旅立つのは俺一人だ」
リベリウスの物言いに驚き、声をあげようとするエルヴァージュを制し、リベリウスは軽く手をあげて見せた。
リベリウスは、もう仮面を付けてはいなかった。エルフ達が愛し、尊敬の念を込めて名付けた通り名の由来である、美しい灰色の髪と灰色の瞳が、焚き火の炎に照らし出されている。リベリウスは、じっとエルヴァージュをみつめると、ゆっくりと語りだした。
「友がいた。二度と得る事のかなわぬほどの、無二の親友だった」
リベリウスはそう言うと、木々の葉陰に霞む月の方に視線を移し、独り言のように先を続けた。
「共に過ごした日々は、幾月か、そう長くは なかった。しかし、絶望と恐怖、血と死の狂気に満ちた戦いの中、奴は共に信頼しあい、命を預け得た数少ない戦友だった。・・・そして、その男が、全世界の犠牲となって、魔王と共に永劫の闇の中へ消えようとした」
知るものは誰一人口にせず、それ故語り継がれる術もなく、正確には誰一人として知ることの無い「騎行軍」の結末。リベリウスは、それを語ろうとしていた。魔城サンデュラスカーナの最奥部、闇の門での戦い。エルヴァージュは思わぬ話の流れに、知らぬ間に魅せられたようにリベリウスの顔を見入っていた。
「ただ、悲しい誤解があった。俺も、もう一人の友も、訳も分からぬまま、セルミナを救おうとした」
「ザオックの人間の騎士、グラード=ビリスですね」
こちらに目をやり、黙ってうなずくと、リベリウスは悲しげな表情をみせた。
「魔王を封じる古老達の魔法は、不完全だった。そして、魔王は、半ば、封じられた」
「半ば?」
「歴史の語る事全てが真実ではない。・・・そして、グラードは門の守人となり、セルミナは、古老達の術の失敗で作られた亜空の結界の狭間に消えた」
リベリウスは、そこで言葉を切り、遠くを見つめるような表情で下弦の月を見上げた。
沈黙が流れた。
リベリウスは、身を切るほどの、厳しい、そして寂しげな表情を浮かべていた。
エルヴァージュは、この沈黙を破って騎行軍の結末について質問することは、自分には出来ないと悟った。
「俺は、セルミナを探さねばならない。結界の狭間に消えはしたが、大陸上の何処かに飛ばされただけだ、と古老達は言った。そして、全てを、呪われた物語の全てを終わらせねばならない」
リベリウスはそう言うと、エルヴァージュの方を急に振り返り、力強い口調で話しはじめた。
「エルヴァージュ、確かに、お前達の抱える問題も重要だ。しかし、俺は、何よりも先んじて、セルミナを探さねばならない。俺は、そのためだけに、この25年間、大陸中をさ迷って来た。セルミナが、生きているかどうかも分からずに。しかし、あの傭兵上りの男のおかげで、光明が見えた。今、俺は時間を無為に過ごし たくないのだ」
「これから、どうするのですか」
「竜を追う。セルミナが、あの男の言うように青竜を従えたのならば、その竜はセルミナの元から離れられぬはず。そして、風の噂でセミスト青竜公国に五頭目の竜が現れたと聞いた。俺はセミストへ行く」
日は、薄く木々の間を吹きぬけている。
朝を迎えてもなお薄暗い森の奥で、遠く小鳥のさえずりが聞こえはじめた。
「行ってしまったのか」
アースは一抱えほどもある大木の根に腰を下ろし、ただ、朝靄にかすむ木立の先へと視線を向けた。
「黙って消えちまうなんて、礼儀を知らない奴だな」
一人の男が去ったけもの道には、木陰からもれる朝日が光る柱のように降り注いでいる。
「三英雄。信じられない、といったのが正直な感想ですね」
皆が、一人の男が歩み去った先を見つめていた。いや、再び歩きだした、とでも言うべきか。人知れず、友を求めて長い旅を続けてきた男は、竜の飛び去った北の山並みへと消えていった。今まで偽っていた名を捨て、仮面を後に残して。
エリーシアがポツリと呟いた。
「夢じゃないわよね」
夢、そう、全ては夢物語の一節のような数日だった。
辿りついたエルフの谷は、風に揺らぎすらして見せる魔法の木々の結界の中に深く沈み込んでいた。
ついこの前までは遠くの国での出来事に過ぎなかった戦火は、知らぬ間に足元まで忍び寄り、四本腕の悪魔と魔軍の兵達が故郷の森に悠然と馬を進めている。
「夢なら、飛びっきりの悪夢だろうな」
しかし、魔王と相討ちして果てた英雄と、彼と共に死力を尽くして世を救った剣匠とが、再び戦いの舞台へと登ろうとする足音がアースの耳には響いていた。
アースは、剣を支えに、ゆっくりと立ち上がった。
「ヴェルジレット・・・いや、リベリウスは何か?」
彼の旅立ちをただ一人見送ったというエルフの方を振りかえると、そのエルヴァージュの沈鬱とした声が返ってきた。
「彼は、昔からあまり多くを語る人ではなかったが、今回も、ただ一言謎めいた言葉だけを残して去っていってしまった」
「何と?」
「人の想いを思えば、想いも通ずる、だそうだ」
「気取った放浪の剣匠に似つかわしい謎かけだのう」
「他には?たったそれだけ?」
当惑して聞き返すエリーシアに肩をすくめてみせるエルヴァージュを尻目に、ケインは自慢の両手斧を背中に背負い直した。
「おらん者に文句を言っても聞こえはせぬ。ならば、おる者が考える番じゃ」
「だって、あの三英雄の一人、でしょう?わたし達、こんなに困ってるのに・・・」
「そのわたし達を信じて全てを任せた、と考えるのは自惚れでしょうかね」
フェラルドの言葉にエリーシアは言葉を詰まらせ、頬を膨らませるような仕草を見せた。
「とにかく、」
そんなエリーシアを見ながらアースは言葉をつないだ。
「俺達は南へと進もう」
突然の言葉に、一同がアースに注目した。
「なんだよ、急に」
驚くグレニーの次の句を手を軽くあげて制し、アースは自分の考えを伝えるべく、皆の顔を見渡した。
「昨日、月が沈むまで考えていたんだ。これからどうしようか、いや、今、どうするべきか。」 皆が静かに聞き入る中で、アースが話を始めた。
アースの声が、闇の森の木立の間に染み込んでいった。朝の木立は、わずかな音にさえも、かすかな響きを加えて囁き返してくれる。木々に住まう精霊は、凛とした静寂の中に生き、絶え間ない命の息吹の中に歌を見出すという。しばらくした後、突然、闇の森にドワーフの野太い声が響き渡った。
「よし、気に入った。その案でいこう」
六人が一斉に動きはじめた。
南へ。
悪魔の足跡を追って。
土砂降りの雨の中、なだらかな丘陵の中腹の木々もまばらな林の中に、6人はいた。
「この雨じゃここいらが限界だな。 馬の足跡ももうとっくに消えちまってる」
一人離れて先に立つグレニーがそう言って皆の方へ振り返った。6人が6人、黒っぽいすすけたローブで体を包み、雨に打たれるまま立ちすくんでいる。水をはじく蝋を塗りこんだローブで激しくうつ雨だけはしのいでいるが、寒さと疲れからくる重苦しさまではどうしようもない。
「ついに見失ったって訳か」
アースが低く呟くとグレニーも同様に静かにそれに同意する。激しい雨で半分泥沼と化している草むらのあぜ道を見て、アースは隣に立つエルヴァージュの方を振り返った。
「魔軍を追うにしてもこの雨だ、少し休みをとろうか?」
「魔物どもも同じ様に休んでくれればいいが、むこうが動けばその分遅れる事になる」
エルヴァージュがそう答えると、その傍らに立つケインが口を挟んだ。
「じゃが、もうすぐ森の木立も切れ、人間達の町も近くなる。魔軍の連中もそう自由には動けんはずじゃ」
闇の森を5日間かけて南へと下り、魔軍の残す足跡を追いつづけて来た一行は、ろくな休みも取らずに強行軍を強いて来た。しかし敵は、アース達よりも4日ほど先に動きだしており、さらに馬をいっぱいに走らせている。グレニーの予想だとアース達がエルラ=ミルの谷を出発した頃、この付近を南へと下っていた事になる。
「このへんって、確かゴルレオスの丘の北辺りよね。あと半日南へ行けば麓のローズの町に着くはずよ。町は大丈夫かしら」
エリーシアはなだらかな丘陵の先に霞む平野に目をやり、皆を見回した。
「魔軍といっても私達が追っているのはせいぜい十数人の魔物達。彼らだけで人間の町を襲うということはないでしょう。辺境の町をただ襲うというのも無意味です」
エリーシアを安心させようとしたのか、フェラルドが誰とはなしにそう話し掛けた。その話に珍しくエルヴァージュがうなずいてみせる。
「下等な魔物の群れならば心配だがエルラ=ミルを封じたほどの魔術師ならば確かに人間の辺境の町を無意味に襲ったりはしないだろう。無関係ならば人間の町に寄り道している暇はないな。ただでさえも急ぎの旅だ」
エルヴァージュのその言葉を聞くと、エリーシアは残念そうに下をうつむき、頬を伝う雨のしずくを不快そうに手の甲でぬぐった。
どうやらエリーシアは町に寄りたいらしい。
「町まで降りてみたらどうだ。食料も底を尽きかけているし、ここしばらくゆっくり休んだ日なんてねぇじゃねぇか。これじゃあ今魔軍にあっても剣を抜く前に自分で倒れるぜ」
グレニーがそう言ってアースを見ると、自然と皆の視線がアースへと集まった。
「で、これからどうするんじゃ」
ケインの問いかけにアースは思わず口を開け、自分で聞いても気の抜けるような声で聞き返していた。
「こ・・・これから?」
「そう、これからじゃ。魔軍を追う、と言い出したのはお前さんじゃからな。見失ったからにはこれからどうするか決めねばなるまい」
アースは当惑して皆の顔を見回した。(最近、よくこういった場面にでくわすな)アースはふと思い出した。エルヴァージュ達と会った時も、エルラ=ミルから旅立つ時も、これからの行動を決める時には、必ず最後にアースの意見が待たれた。今回もそうだ。そして、その度に当惑することになる。皆を見回せば、そこには様々な知識や経験をもつ戦士達がアースを取り囲んでいる。戦いの技量にしても、腕力にしても、知識にしても、アースよりも格段に秀でた者達ばかりだ。だが、いつも何かを決める時は、アースが賛成した事が皆の賛同を得ることとなる。なぜだろうか。
「どうなんじゃ」
「あ、あぁ。それじゃあローズの町に行こう。確かに急ぐ必要もあるけど、町で人に聞けば、魔軍の足取りも掴めるかもしれないしね。それに食料のことも、グレニーの言ったとおりだ」
そう言うと、エリーシアが安心したようにほっと一息ついた。
「やっとちゃんとしたベットで眠れるわ」
「それが本音のようですね」
フェラルドがそういうとエリーシアはびっくりして顔を赤らめた。
「そ、そんなこと無いわ、ローズの町が心配で・・・」
「ローズの町の宿屋が無事か心配で?」
茶化すようにグレニーがエリーシアの口調を真似て続けるとエリーシアは怒ったように頬をふくらませたみせた。
「なによ、グレニーさんの意地悪!!」
「まぁ、まぁ、とにかく先を急ぎましょう」
フェラルドがエリーシアをなだめながら先を促すと、やっと皆が丘の麓の町をめざし動きはじめた。
「グレニーさんだってふかふかのベットで眠りたいでしょ!そうわたしが思って悪いの?」
「別に悪いなんて言ってないぜ。まぁ、そんな怒るなって。せっかくの美人がだいなしだ」
「またそんなこと言って・・・」
グレニーとエリーシアはそう言い合いながらも早足で丘の坂道を降りていっている。
他の者はその二人を見て苦笑を浮かべながらそのあとに続いていく形となった。
さっきまで意気消沈して雨の中にたたずんでいたのが嘘のようだ。こころなしか雨も小ぶりになってきている。
「仲がわるいわけでもないのにあの二人はすぐ口論になるな。不思議なものだ」
エルヴァージュが不思議そうにフェラルドに話し掛けている。
「口論ではありませんよ。あれも打ち解けて来た証拠です」
「そうやってエルヴァージュがフェラルドに話し掛けるのも打ち解けて来た証拠じゃな。違うか」
ケインがそうからかうとエルヴァージュは驚いケインを見返した。
「別に疑問に思ったことを口にしたまでだよ。馴れ合いはきらいだ」
憮然として歩みをはやめたエルヴァージュの背中を見て、ケインは大きな笑い声をあげた。
「どうしました、アース。一人考え込んで」
一番後ろから続くアースの方を振り返り、少し微笑んだままでフェラルドがそう話し掛けて来た。
「いや、こんな簡単に決めてよかったのかな、と思ってね」
アースはまたもや自分の一言で皆が動きだしたことに当惑して、知らぬ間に考え込んでいたらしかった。
「無理をしてでもこの周辺を探った方がよかった、なんてことはないかな」
アースが自信なさげに聞き返すと、フェラルドは首をかしげ、肩をすくめてみせた。
「そう言われましても、ね。今は町へ降りて貴重な休養をとり、情報を集めて次の行動をきめる、といった今の選択が正しいと思うんですがね」
「お前さんがそんなことでどうする」
ケインがアースの横を歩くよう歩調をそろえ、アースに話しだした。
「別に皆が全員、何も考えずお前さんの意見に従っているわけじゃあない。皆それぞれ考え、うすうす次にすべき事がなにかくらい気付いているんじゃ。ただ、お前さんが少しばかり頭の回転が早くて言葉に出して指摘してくれるから、皆が従うだけのことじゃ。間違っていると思えば文句も言うわい」
「頭の回転が早い?」
「よい指導者とは、独創的な考えを持つ人ではなく、皆の考えを代弁する能力に長けた人物である、とある人は言っていますよ。そういう面では、アースはこの6人の中では一番指導者に適した人物でしょうね」
「そんなことはないと思うけどな」
アースはそう言いながら少し先を行くエルヴァージュに話し掛けた。
「ローズの町には寄らずにエンダインへの旅を急いだ方がいいんじゃないか?」
「確かに、エンダインへは出来る限り急いで行き、一刻も早くエルラ=ミルを忌まわしい結界から開放したいさ」
エルヴァージュはゆっくりと振り向くと、アースが追い付くまで待ってくれ、話を続けた。
「しかし、魔軍の動向も知っておきたい。なぜエルラ=ミルを魔法で封じたのか?なぜ大軍を繰り出して攻めたりはしなかったのか?なぜ小数の手勢だけを率いて南へと下っているのか?謎は多い。ただ、それを何も知らずに古老に助けを求めても根本的な解決にはならない気がするのだ。魔軍の今回の一連の動きの背景に何があるのか・・・それを知るには確かにアースが言うように、魔軍の一行を追うことが一番の良策だと私は思っている」
それはアース達がリベリウスと別れた時にアースが皆に告げた話をエルヴァージュなりに解釈した結果だった。アースはその時、リベリウスの言葉を借りて皆にこう言った。
「今起こっている問題の全ては、何等かの形であの悪魔を引き連れた魔軍の一行が引き起こした事が原因で起こっているんだ。だから、その魔軍の一行を追いかけよう。魔軍の連中が何をやろうと思っているのかを考えれば、俺達が何をやればいいかが分かるはずだ。それを知るためにも、無謀かもしれないけどあの悪魔達を 追いかけよう。リベリウスの言葉じゃないが、敵の考えを思えば俺達の想いもかなう、と思う」
結局、その言葉が皆を動かした。誰も、戦って勝てる相手ではないと薄々気付いていた。しかし、無視することが出来ないということも事実だった。それをアースが代弁したと、フェラルドは言いたかったのだ。
エルヴァージュがぬかるみを避けて歩きながら、先を続けた。
「今は、皆が休養を必要としている。この5日間の強行軍は、旅に不慣れなアースやエリーシアにだけでなく、確かに我々にも酷なものだった。人間の町というのが気に食わないが、夜襲に脅えることなく、ゆっくり眠れるのならば贅沢は言ってられないからな。そこで一片なりとも魔軍の情報を得ることが出来れば、今後の 参考にもなる。雨の中この辺をうろつきまわるより確かに有意義だ。さっきの発言について責めているのなら素直に間違いを認めよう」
「別に責めている訳じゃないよ」
アースは慌ててそう答えた。エルヴァージュは、少し間を置き、アースの顔をじっとみてから、さらりと一言付け加えた。
「ならば、いい。先を急ごう。雨もようやく落ち着いてきたようだ」
そういうとエルヴァージュは歩みを早め、先に行くケインに追いつき、なにやら話を始めた。
「あまり悩んだことについて悩まないことです。悩んで出した結論を、それを出し事について悩んでいては、人間体によくありません」
フェラルドのいつもの難解な言い回しのはげましを聞きながら、アースはふと丘の頂上辺りを見上げてみた。そこには、崩れかけた古城跡が木々の間に埋もれて小さく見えている。下に目をやれば、丘の麓に、うっすらと靄に霞んで人間達の住む平野が広がっている。足元には、仲間達の作った大小様々な足跡が丘のぬかるんだ 斜面にはっきり残されており、今もどこかを闇に埋もれて進んでいる魔軍の兵達の足跡は、朝からの激しい雨で全て洗い流されてしまった。
「町に着けば、何かがわかるさ」
アースはそう一人ごとを呟き、皆に追い付くために歩みを早めた。